Abstract : |
開心術の際, 無血, 無拍動視野を得, かつ, 心筋保護が得られる補助手段が望まれるが, これらの補助手段が, 循環遮断による虚血心筋をどの程度保護し得るものかを知るための実験の一環として, 著者は, 心筋の電顕的観察を行った. 常温下では循環遮断後60分で, ミトコンドリア基質の透明化およびクリステの配列の乱れが認められる. 20℃の低体温下では循環遮断後60分でも心筋の超微細構造は良好に保持されているが, 120分後には, ミトコンドリアの形態変化, グリコーゲン顆粒の減少などの乏血性変化は進行する. さらに長時間の無血, 無拍動視野を得るために低温酸素化非血液性冠潅流法が考えられるが, 著者はSaviosol液に, 物理的に酸素を溶解させ, エネルギー源として, グルコースとインシュリン, その他に代謝抑制剤, Membrane stabilizer, 末梢循環改善剤などを混入したものを冠潅流液として作成, 潅流条件を検討した. なお, 拡張期心停止を得るために, カリウム値は8.0mEq/Lとなるように調節した. 潅流液温を変え, 心筋温は37℃, 20℃, 10℃群について検討した. 滲透圧は糖質の量を変えることによったが, 290, 390, 450mOsmの3群に分け, 6時間の冷却冠潅流を行った. 390mOsm液では潅流後4時間までは心筋超微細構造の維持は良好であるが, 6時間後にはミトコンドリアの形態変化は軽度進行した. 450mOsm液では潅流後6時間経過しても心筋超微細構造の維持は良好であった. 一方290mOsm液では, 6時間後にはグリコーゲン顆粒は保存されているにもかかわらず, 細胞内浮腫像は著明になり, とくに, ミトコンドリアの形態変化は不可逆性であると考えられた. 結論として, 心筋温を10℃~20℃に保ち, 冠潅流液滲透圧を390~450mOsmに維持すれば, 著者らの作成したmodified Saviosol液による冠潅流で, 十分に, 正常心筋の6時間の心筋保護が得られることを知った. |