Abstract : |
従来, 肺はガス交換臓器とみなされてきたが, 近年, 生理活性物質とくに血管作動物質の代謝に関与する一種の内分泌臓器としても重要であることが認識されてきた. 外科領域においても, エンドトキシンショックおよびアナフィラキシーショック, ショック肺, 肺塞栓および肺高血圧症などの病態の原因体として, 血管作動物質とくにセロトニンの役割が注目されている. 低体温下開心術においては, 低温に伴い諸臓器の機能は一時的に低下するが, 所定の最低温を得るまでは, 肺のガス交換能は充分に温存されなければならない. かかる状態における肺の血管作動物質の代謝異常の追求は, 術後における低心拍出症候群あるいは肺合併症との関連において重要な問題と考えられる. 今回は低体温下開心術に伴う血清セロトニンの代謝変動を臨床的ならびに実験的に追求し, 同時にセロトニンの運搬体である血小板の変動を51Cr標識血小板の血中変動および肝ならびに肺における摂取の面より追求した. 血清セロトニンは冷却時には一時的に減少するが, 復温時には前値に復し, 術後も特有な変動を示さない. また, 肺高血圧症例としからざる症例との対比において, 血清セロトニン値に特有な差は認められなかった. 冷却により肺のセロトニン代謝は低下するにもかかわらず, 血清セロトニンの減少する所見は, 冷却によるセロトニン産生の低下と解される. 一方, 51Cr標識血小板は, 冷却とともに血中より減少し, 肝および肺に摂取され, 復温とともに再び肝および肺より血中に放出されることが判明した. したがって, 多くの場合, 術後合併症におけるセロトニンの関与は少いと考えられるが, 肺における血小板のnormal kineticsに異常をもたらすような病態が惹起された場合には, セロトニンの肺代謝に異常をきたし, いわゆるserotonin-induced pulmonary injuriesを招来するものと推測される. |