Abstract : |
術前に高度肺高血圧症を伴い根治手術後遠隔死亡した3例の完全大血管転位症(TGA)の生検肺と剖検肺の肺小動脈に組織計測を行い, 術前と術後の肺動脈壁と肺血管病変の変化について検索した. 根治手術後の肺動脈中膜の肥厚は3例に共通して認められた. さらに15例のTGA剖検例と3例の遠隔死亡例を加えて検討すると遠隔死群では中膜は明らかに厚く, TGAの根治手術後に中膜が肥厚することは一般的な現象と考えられ, 本文ではそのメカニズムについて考察した. 3例中2例では術後中膜は極限まで肥厚しており, 肺血管病変も高度に進展していた. このように極度に肥厚した肺動脈中膜は血管攣縮を起こしやすく, そのたびにさらに末梢の肺動脈は虚血性変化におちいり, 内皮細胞が損傷され肺血管病変が進行したものと考えられた. 3例中遺残心室中隔欠損症のみられた1例は術後の中膜の肥厚も中等度で肺血管病変の進行も認められなかった. 以上の結果より, 高度の肺高血圧症を伴うTGA症例は根治手術後に中膜が著しく肥厚し, そのため肺血管病変も進展して遠隔死の原因となりうるので手術適応から除外すべきであると結論された. しかしながら, このような症例には体循環から肺循環への短絡が残存するような手術方法が肺血管病変の進行を防止できるので有効であると考えられた. |