Abstract : |
開心術中の心筋保護法の中で, cardioplegiaは優れた方法として注目を浴びている. しかし, その手技, 方法はいろいろなものが行われていて, 心停止剤や潅流液の組成などの点についての論議が盛んである. Cardioplegiaの方法として, 通常は, 大動脈経路より, 心停止剤や潅流液が注入されるが, 大動脈弁やそれと隣接した部位に病変がある場合には, 注入された液が直接左室へ逆流したり, 右室へ流入したりして, その効果が不確実となる. そこで, 大動脈を切開して直接冠動脈へカニューレを挿入することが必要となるが, その場合, カニューレが手術野にあってじゃまになるし, カニューレによる冠動脈口の内膜剥離,解離,閉塞等の合併症もある. これらの手術手技上のわずらわしさや合併症を避けるために, 冠静脈洞より, 逆行性に潅流する方法を利用して, cardioplegiaを行うことにした. Cardioplegiaの潅流液は, ハルトマン液にKCIを加えてK濃度, 40mEq/Lとしたもので, これを冷却して80~100cmの高さより落差により潅流した. これに加えて, ハルトマン液slushを心のう内に注ぎ入れて冷却を行うので, 心筋温は3分程で15℃以下に低下する. 潅流液はまず500mlを入れ, その後は, 心筋温が15℃以下に保たれるように, 追加潅流するか, 低流量で持続的潅流するかした. この1年間に臨床15例に使用し, 大動脈遮断時間の最長は173分, 最短は43分, 平均98分であったが, 心そ生はきわめて容易で, 術直後の心機能も良好で, カテコールアミンの点滴を要したものは三弁置換の症例だけであった. 15例全例が, 全治あるいは軽快して退院した. 血清酵素活性の変動をしらべてみると, 逆行性に行ったcardioplegiaも順行性に行ったものと同じ程度の心筋保護効果を示し, 全身への手術侵襲と比べて, 心筋がとくに強く障害されている所見はなかった. |