Abstract : |
胸部下行大動脈遮断に伴う脊髄障害(対麻痺)の発生について, 体性感覚誘発電位(SEP)を用いて遮断末梢側平均血圧と脳脊髄液圧との圧差(これを「相対的脊髄灌流圧Relative spinal cord perfusion pressure(RSPP)」と呼称)の脊髄障害発生に及ぼす影響につき実験的に検討し, あわせて本合併症の防止対策を検討した. 雑種成犬32頭を用いて下行大動脈を遮断後, SEPが消失するのを待って, 以後の遮断時間とRSPPにより, A群:10分, 0mmHg(6頭), B群:20分, 0mmHg(8頭), C群:20分, 7.5mmHg(3頭), D群:40分, 7.5mmHg(3頭), E群:40分, 15mmHg(6頭), F群:60分, 15mmHg(6頭)の6群に分け, 術後の対麻痺の発生頻度を観察した. 結果はA群0%, B群100%, C群33%, D群100%, E群0%, F群50%の発生率であった. 以上の結果, 下行大動脈の遮断に伴う脊髄障害の発生は, 例えSEPが消失して脊髄が虚血に陥ったとしても, RSPPが高値であるほど脊髄障害発生までの時間が延びることが示され, 脊髄障害発生に及ぼすRSPPの重要性を明らかにし得た. 従って下行大動脈遮断時の脊髄障害発生予防のためには, SEPを消失させないようにRSPPを高く保つ必要があることはいうまでもないが, 例えSEPが消失したとしても, できるだけ高いRSPPを保つことにより本合併症の発生の危険性をより低下させ得るものと思われる. |