Abstract : |
後側方開胸下に一肺葉切除及び2群リンパ節郭清術を行った肺癌32例(A群), 並びに腋窩開胸下に肺楔状切除を行った15例(B群)の2群について, 周術期における血清中の亜鉛及び銅濃度を測定し, その臨床的意義を検討した. 血清中亜鉛濃度は, A群では術後6時間で最低となった後上昇し, 正常域への復帰は5~7日, 術前値へはそれ以後2週までの間であった. しかしB群では術後3時間で最低値を示し, 術2日には正常域まで, 術5日には術前値に復した. また両群間には, 手術直後より術4日まで有意差を認めた. 手術時間, 出血量, 呼吸機能は血清亜鉛濃度に影響しないことが示され, このことより手術によって加えられた創傷の程度が大きいほど, 血清亜鉛濃度は低下遷延すると考えられた. 更に肺炎合併例では, 血清亜鉛濃度がその増悪寛解に伴って鋭敏に増減することが示唆された. 以上のことより周術期における血清亜鉛濃度の変動は, 手術創による侵襲の大きさやその回復状態を表すだけでなく, 合併症の有無とその消長を示す指標としても有用であることが示唆された. しかし血清銅濃度は徐々に増加するものの両群間に有意差はなく, 周術期における臨床的意義は認められなかった. (日本胸部外科学会雑誌1994;42:1178-1183) |