Abstract : |
糖尿病患者における冠状動脈バイパス術後の細胞性免疫能動態を非糖尿病患者のそれと比較した. 経口薬使用3例, インシュリン使用2例, 食餌療法4例の糖尿病症例9例を糖尿病群(I群), 境界型を除いた非糖尿病症例12例を対照群(II群)として両群間で比較検討した. 両群間で年齢, 輸血量, グラフト数, 大動脈遮断時間, 体外循環時間, 手術時間に有意な差を認めなかった. リンパ球サブセットは, CD3, 4, 8の各陽性細胞数, CD4/CD8, インターロイキン2(IL-2)receptor陽性細胞数ともに術前後で両群間に有意な差を認めなかったが, OKIa1陽性細胞数は術前及び術後7日目にI群で有意に低値を示した. IL-2産生能は, 術後1日目で両群とも術前値に比し有意に(p<0.05)低下し, 術後3日目ではI群3.1±2.6U(術前37.3%)と更に低下したのに対し, II群では6.6±4.0U(術前の70.4%)と回復傾向となり, I群で有意に(p<0.05)回復の遷延化を認めた. また, II群ではCD4陽性細肌数とIL-2産生能の間に正の相関を認めたが, I群には設められなかった. リンパ球幼若化反応は, 各群での術前後及び両群間に有意な差を認めなかった. NK細胞活性は, 両群とも術後有意に低下するものの(p<0.01), 両群間に有意な差を認めなかった. また, II群では, 輸血量と術後3日目の%IL-2(術前を100%とした術後変化率)との間に負の相関関係を認めたが, I群では認められなかった. 糖尿病患者は細胞性免疫能の機能として重要なIL-2産生能において術直後の低下及び回復の遷延を認めた. 手術侵襲により, helper T細胞の機能低下が遷延し, 術後免疫能低下状態となりうることが示唆された. (日本胸部外科学会雑誌1994;42:1875-1884) |