Abstract : |
心臓超音波検査を用いて新生児期Jatene手術直後からICU退室までの間の左室機能評価を経時的に行った. 左室機能の指標として収縮末期左室壁応力(ESWS), 心拍補正平均円周収縮速度(rate corrected mean Vcf;mVcfc)を求め, 更にESWS-mVcfc関係から, 心拍数や前負荷に影響されず後負荷により標準化された心筋収縮力の指標であるStress-Velocity Index(S-V Index)を求めた. また術前の左室の条件として拡張末期左室内径(LVDd), 拡張末期左室後壁厚(LVPWTd), 拡張末期左室後壁厚と拡張末期左室内径の比(LVPWTd/LVDd)及び左室右室収縮期圧比(LVp/RVp)を求め, 術後急性期のESWS及びS-V Indexとの比較検討を行った. 収縮末期血圧には橈骨動脈圧のdicrotic notchの圧を使用した. 新生児期Jatene手術症例11例の術後急性期のESWSは37.8±17.3g/cm2(mean±SD), S-V Indexは0.80±3.11であった. S-V Indexは術後12時間後までには11例中9例で正常範囲あるいは正常以上の値を示した. 術前のLVDdと術後急性期のEWSW, S-V Indexは有意な相関関係を示さなかった. 術前のLVPWTdと術後のESWSとの間には有意な相関関係はみられなかったが, LVPWTdと術後のS-V Indexとの間には正の相関関係が認められた(r=0.74, p=0.015). LVPWTd/LVDd比は術後急性期のESWSと負の相関関係を示し(r=0.66, p=0.037), S-V Indexとは正の相関関係を示した(r=0.80, p=0.006). また術前の左室右室収縮期圧比はESWSとは有意な相関関係を示さなかったが, S-V Indexと正の相関関係を示した(r=0.67, p=0.023). これらの結果より, 新生児期Jatene手術後急性期は, おおむね低い後負荷と良好な心筋収縮力を示し, 術前のLVPWTdが厚いこと, LVPWTd/LVDd比が大きいこと, 左室右室収縮期圧比が1.0に近いことが術後の左室収縮能を良好に保つ条件であると考えられた. 特にLVPWTd/LVDd比は術後急性期の左室壁応力との逆相関も示し, 新生児期Jatene手術後急性期の血行動態を予測する有用な指標となり得ると考えられた. 心エコー法によるESWS及びS-V Indexはベッドサイドで容易に得ることができ, 術後管理上非常に有用であった. 特にS-V Indexは理論的には心室の諸条件に影響されにくい純粋な心筋収縮力の指標であり, 開心術後急性期のダイナミックに血行動態が変化する時期においても左室収縮能の正確な評価が可能であると考えられた. (日本胸部外科学会雑誌1994;42:2023-2031) |