Abstract : |
冠状動脈疾患に対する冠状動脈バイパス手術(以下A-Cバイパス術)のグラフト材として用いられる右胃大網動脈(以下RGEA)の動脈硬化の病理組織学的程度を数式化した後に分別し, 動脈硬化の危険因子との関係につき検討した. 対象は早期胃癌にて胃切除術を施行した32例(男18例, 女14例, 年齢32~80, 平均62歳)で, 入院時に高脂血症, 高血圧, 喫煙, 糖尿病の有無を検索し, 血清コレステロール値, 中性脂肪, アポ蛋白濃度, BMIを測定した. 胃切除標本より胃十二指腸動脈分岐部からRGEAを20cm採取し, 近位から5cmおきにA, B, C, Dと分割し, 薄層切片を作成, 顕微鏡下に内膜面積(I), 中膜面積(M), 及び中膜周囲径(L)を求めた. 血管断面を円に近似し, 内膜肥厚による狭窄度rを次式のように定義した. r=ルートL2-4π(M+I)/L2-4πM 平均r値(%)は, A;r=13.5±6.5, B;r=13.7±8.8, C;r=13.7±6.8, D;r=13.5±7.8(平均値±標準偏差)で, 4部位間で有意差は認めなかった. A~D間におけるrの最大値Rにより個々の症例の動脈硬化度をgrade I;R<25%, grade II;25%≦R<50%, grade III;50%≦R<75%, grade IV;75%≦Rと分類すると, 狭窄程度別にみた動脈硬化の出現頻度はgrade I:24例(75%), grade II:8例(25%), grade III:0例, grade IV:0例であった. Rと各危険因子間に有意の相関はなかった. 今回の対象としたRGEAでは, 動脈硬化の好発部位は特定されず, 高度の狭窄を伴う動脈硬化は認められなかった. RGEAはA-Cバイパス術のグラフト材として極めて有用と思われた. (日本胸部外科学会雑誌1995;43:810-817) |